• 公開日:2019/08/02(最終更新日:2020/05/31)

【天気の子】感想(ネタバレあり)大丈夫という曖昧な言葉と強い希望の物語


映画と小説どちらも踏まえての感想・解説になります。

物語のラストにも触れるためネタバレが気になる方は逃げてください。

あらすじ

主人公(穂高)の視点で見た世界を映し出すこの物語は、見たものに思春期の揺らぎや不安定さ、特有の全能感を追体験させます。この不安定さが非現実的な世界に私たちを誘う繋ぎであり、最後の大丈夫という台詞をより強固に確信させるものにもなっています。逆に恥ずかしくて見ていられなくなる人はこの部分が受け入れられない要因でもあります。(映画では村上春樹訳の「キャッチャーインザライ」をわざわざ見せてくれますが、つまりはそういうことですね。)


穂高は自身を取り巻く環境を変えようと光を求めて東京を目指します。環境を変えたのはいいものも、自分の力だけではどうすることもできない、うまくいかない感情が主人公が何度も口にする「東京って怖え」という台詞で表現されています。そんな状況の中でも助けてくれる大人(須賀)や、求めていた光の象徴のような陽菜との出会いによって居場所を見つけていきました。

穂高は、陽菜の持つ雨を晴らす力を使ってビジネスを立ち上げます。雨を晴らすという夢のような内容でも、雨が降り続ける東京では希望をもった人たちからの申し込みが入りました。結果、陽菜の100パーセント晴れ女の力によって、依頼主の希望を次々と叶え、ビジネスは成功するわけです。人の気分を晴らすこの仕事に充実感を感じる主人公たちですが、この生活もそう長くは続きませんでした。穂高には捜索願が出され、序盤で陽菜を助けようとした際に使用した拳銃を所持している疑いもかけられいます。陽菜も両親を失っている状況で、児童相談所の職員が家に訪ねてきます。さらに陽菜の力は自由に雨を晴らすものではなく、自身の命と引き換えにこの東京の雨を晴らす人柱としての役割だということが示されます。少年少女が自分たちの力で生きていける、そんな気になっていたところですが、結局取り巻く環境は変わることなく、社会のしくみや運命的なものに縛られている状況はなにもかわっていませんでした。

それでも穂高はやっとつかみかけたこの生活を失いたくないという思いから、逃げることを選択します。行き当たりばったりでいく当てがあるわけでもなく、たどり着いた先のホテルで穂高にも陽菜の人柱としての役目が伝えられます。陽菜は役目を全うして天にきえ、穂高はそれを完全には信じきれずにいます。陽菜を探しているところを警察に捕まってしまいますが、連行されて外に出たとき、空からプレゼントの指輪が落ちてくることで穂高は、陽菜が空に消えたことを確信します。自分が陽菜を連れ戻すと決めた穂高。どうすれば陽菜を連れ戻すことができるのか、確定的な方法もわからないまま、きっと連れ戻すことができると信じて陽菜が空とつながった鳥居を目指します。出会った人達の助けもあり、警察を振り切った穂高は陽菜を空から連れ戻すことに成功します。これはのちに東京を雨に沈ませる結果を生みます。

場面は飛んで2年半後。穂高は高校を卒業し東京の大学に進学します。東京は穂高が陽菜を空から連れ戻した日から降り続いた雨で水に沈んでいます。その光景を見るたびに大勢の幸せを奪ってしまった後悔を感じる穂高。陽菜にはもっと大きなものとなってのしかかっているだろうと考え、会う理由を見つけられずにいます。出会った大人からは励ましのようにも取れる言葉をもらいますが、それでも納得することなく考え続けます。その答えは穂高が陽菜とであう最後の場面で見つかり、このセリフで物語は締めくくられます。「僕たちは、大丈夫だ」

天気の子感想・解説

「生きているだけでいい」というメッセージ

この物語は主人公の人生の極めて一瞬の出来事を切り取って私たちにみせてくれます。結末は世界を救うものではありません。ただそこで世界を救わなかった主人公を否定するひとも現れません。

序盤で穂高と出会う須賀と夏美。彼らは穂高に希望を感じます。須賀は穂高をかつての自分と重ね、助けます。穂高が警察署を逃げたと聞くシーンでは、穂高と陽菜の関係を、須賀と亡くなった妻に重ね合わせます。(事務所の柱に刻まれた妻との思い出と人柱としての陽菜として示唆されている。)須賀のやりきれない思い。亡くなった奥さんに縛られている状態を、穂高を助け、陽菜を連れ戻すことによって振り切っているように感じ取れます。また、夏美も穂高と出会い、何かが変わる予感を感じています。彼女は自身のモラトリアムに別れを告げるきっかけを探していましたが、穂高を助けたシーンでは、彼を送り出すことによって自身の遠ざかる青春の思い出にしっかりと区切りをつけています。穂高は須賀や夏美に助けられていますが、彼もまた、その存在が彼らを助けているのです。

天気の子は願いのシーンから動きだしました。映画ではヒロインである陽菜が願うことによって雨を晴らす能力を手に入れるところから始まります。(小説では序章として主人公の穂高視点からしっかりと、陽菜の願いから始まると書かれています。)

この願い。日常で忘れがちな夢や希望のようなものを思い出させてくれました。ひたすらに希望を追い続ける穂高と、不確実なものを100パーセント成功させる力を持つ陽菜。それを頼りに多くの人が晴れを願います。主人公とヒロインの物語は大丈夫と締めくくられますが、この言葉、日常では曖昧な表現の代表みたいなものです。これが物語を通してとても強く確信的なものに変わって、しっかりとした自信として使われています。

この大丈夫の使われ方。見た人に夢をもって生きていいんだよ。もっと自由に、好きに生きていいんだよ。そう投げかけているようにも感じ取れます。私たちの背中をそっと押すような「大丈夫」に感じられました。

それぞれの世界は密接にかかわりあい、また隔絶されている

ここまで読んでいただきありがとうございます。

 

天気の子を通して、監督が伝えたかったこと。映画を観て小説を読んで、受け手が感じ取ること。そこにも様々な広がりがあるように感じます。私を通して、この記事を読んでいただいた方にも受け取り方はさまざまであると感じます。監督の世界は物語を通して密接に私たちの世界とつながります。つながった中でまた、私たちの世界が広がります。私たちは世界の一部でありながら、私たち自身が世界です。ここまで言っておいて何ですが、この世界という概念について考えたところで答えはでないですし、正解もないかと思います。結局のところ堂々巡りになるわけで。

私は深く考えるきっかけをくれたこの作品が好きです。人の願うことの醜さも美しさも、人の曖昧でありながら確実なところも再認識させてくれました。

映画では主人公視点で進む物語でしたが、小説ではそれぞれの登場人物の視点から、そのときの感情が詳しく描写されています。須賀が流した涙の意味も、夏美がなぜあの時陽菜に告げたのかも、深く知りたい方はこちらの小説から読み解くことができるのでおすすめです。また、映画の綺麗な情景を文字にどうあらわされているのか。様々な水に関する比喩を探すのも面白いですよ。

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